2025年12月24日、かつて13年間教鞭を執った近畿大学の「11月ホール」にて、ノーベル化学賞候補として世界が注目する北川進先生の特別講演会「未来を拓く科学 夢をかたちに」が開催されました。1,000人規模の会場は、化学界の巨星であり人生の師(メンター)でもある先生の言葉を求める学生たちで、熱気とともに満席となりました。

近畿大学

1. 東洋思想と科学の交差点:『荘子』から得たインスピレーション

北川先生は、自身の研究の根幹にあるのは中国の思想家・荘子の**「無用の用(无用之用)」**であると語ります。

学生時代、日本人初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹博士の著書『天才の世界』と出会ったことが転機となりました。湯川博士もまた『荘子』を深く愛読し、「魚の楽しみ(魚之楽)」といった比喩を素粒子研究に投影していました。

北川進先生13年間勤務した近畿大学

「一見、何の役にも立たない(無用)に見える空間こそが、実は本質的な役割(有用)を果たす」

この哲学的な気づきが、後に世界を驚かせる**金属有機構造体(MOF)**の研究へと繋がりました。他の研究者が「実体」に注目する中、北川先生はあえて「空洞(空間)」という「無用の用」に可能性を見出したのです。

2. 統計力学と「空間」の魔術

講演では、統計力学の基礎であるボルツマンの原理($S = k \log W$)と生体分子の仕組みについても深く言及されました。

「何もない空間は意味がないと思われがちですが、そこを『分子を自由に操る場所』と定義すれば、無限の意味が生まれます」

北川先生は、原子が作り出す極微の空間を積み重ねることで、全く新しい機能を持つ材料を生み出したのです。

清水寺の構造もMOF発想の元の一つ要素
清水寺の構造

3. 京都の「諸行無常」が生んだ「柔らかい多孔性結晶」

北川先生の独創性は、西洋哲学のヘラクレイトスが唱えた**「万物は流転する(Everything flows)」、そして日本文化の根底にある「諸行無常」**の精神にも支えられています。

京都で育った先生は、『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」や『平家物語』の「諸行無常の響きあり」といった、絶えず変化し続ける自然観に親しんできました。

この「恒常性ではなく変化こそが本質である」という考え方が、従来の硬い結晶の概念を打ち破る革新的な**「Soft Porous Crystals(柔らかい多孔性結晶)」**の誕生を後押ししました。

4. MOF(金属有機構造体)が変える未来の地球

北川先生がノーベル化学賞クラスの評価を受ける理由は、この**MOF(金属有機構造体)**の開発と応用にあります。

MOFとは?

金属イオンと有機分子をジャングルジムのように繋ぎ合わせた、ナノレベルの穴が無数に開いた材料です。一言で言えば、**「特定の気体を吸い込む魔法のスポンジ」**です。

ここが革命的:

  • 気体の選別: 二酸化炭素(CO2)など、不要な気体だけを選んで回収できる。
  • 自在な設計: 自然界にはない形を、人間の手で分子レベルでデザインできる。
  • 社会課題の解決: 脱炭素社会(環境)、水素社会(エネルギー)、さらには体内の特定の部位に薬を届ける医療(DDS)など、多分野で実用化が進んでいます。

5. 若者への提言:組織の枠を超えて「動き続けよ」

京都大学(国立)、近畿大学(私立)、東京都立大学(公立)と、多様な組織で研究を続けてきた北川先生。

「一つの場所にしがみつかず、どんどん環境を変えて動いてください。多様な組織を経験したことは、私の人生にとって大きなプラスになりました」

と、自身の歩み(疾風に勁草を知る)を重ねて、変化を恐れない勇気を学生たちに授けました。

「化学界の巨人」でありながら、謙虚に「人生の導師(メンター)」として語りかける北川先生の姿に、会場の学生たちは未来を拓く勇気を与えられました。

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